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君に送る手紙  作者:
7/14

残暑の記憶

夏が去りつつある八月末。わたしは残暑の残る部屋の真ん中で座禅を組んで瞑想をしていた。

家族や友人達は年頃の女子がなにをしているんだと嘆くが心身を落ち着け、自身を見直すことが出来るこの座禅をわたしはいたく気に入っている。


「…………」


無我の極地を目指すが不意に心に湧き出るのは彼のこと。

恋というものに振り回されるとはわたしもまだまだ精進が足りない。


そんなことを考えていた時、軽快な音が携帯(親に無理やり持たされた)の着信を告げた。


「………おや?」


ケータイに出ている名前は石崎透。どうやらわたしの「彼氏」からの電話のようだ。

しかし、だ。

重大な問題が一つ。


「これは、どうやって出ればいいのだ?」


二つ折りになっている携帯を開けば沢山のボタン。どれを押せばいいのかさっぱり分からない。悩んでいる間も音楽は鳴り続ける。気のせいか、その音楽がいらいらしているように聞こえてきてわたしは焦った。


分からない……だから出られない………ならば分かる人に聞こうではないか。


「母上殿~~~!少しお聞きしたいことがあるのだかよいか?」


一階で家事をされていた母上殿にわたしは素直にいまだ鳴り響く携帯を差し出したのであった。



「遅い!!!!!!!」


母上殿に呆れられながらも通話ボタンというものを教えてもらってようやく電話に出ることができたわたしだったがさすがに待たせすぎたのか通話が出来た途端、石崎透くんの苛立った声が耳を貫いた。


「何分待たせるんだ!!何してた!!」


何をしていたか?


「座禅を組んで瞑想をしていたが?」


「は?」


「座禅」


「…………」


電話の向こうで絶句のち小さく「ありえねぇ」とか呟いているのしっかり聞こえておるぞ。


「あ~~まぁ~~~座禅組んでいたから出るのが遅かったのか?」


「いや、座禅自体はしていたが瞑想はできていなかった。どうにも君のことが頭をちらついてなぁ……。出るのに時間が遅くなったのは携帯の出方が分からなかったのだ。待たせてすまない」


ぺこりと頭を下げる。まぁ、頭を下げた所で相手には見えぬのだがなんとなく礼儀的に下げてしまう。

ちなみに携帯で電話をしているときもつい背筋を伸ばし正座をしてしまうのだがこれはわたしだけであろうか?


「お前………それ、わざとか?」


電話の向こうから聞こえていたのは低く唸るような声。


「何がだ?」


「あ~~あ~~~そうだよな!お前、何か考えて言っている訳じゃねよな!」


「………君は一体何を言いたいのだい?」


「うっせぇ!!特にかくこんな会話するために電話したんじゃねぇってことは確かだ」


「では何のために君は電話したんだい?」


「うっ!それは………」


聞き返せば何故が詰まる。………何があったのだろうか?


「…………くぞ」


「?すまない。よく聞こえな……」


「八月三十日の夏祭り、一緒に行くぞ!午後六時神社の鳥居の下に集合!!以上!!通話終わりだ!!」


怒鳴り散らすかのように言うだけ言って着られてしまった。通話の切れた携帯をしばし凝視し、先ほどの彼の言葉を反芻し、そしてわたしは、そのまま無言で携帯を抱きしめてそのまま床に横に倒れた。


「………………っ」


きっと今のわたしの顔はだらしなく閉まりのないものになっているだろう。

そのまま暴れだしたいような叫びたいような表現できない喜びの感情にわたしはしばし身悶えた。

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