真夏の記憶 2
「透と別れ「すまないが断る」話ぐらい最後まで聞きなさいよ!」
言葉に被せる勢いで即断断りをいれたら怒られた。
「最後まで聞こうが聞くまいがわたしの答えは変わらない。わたしは誰かの言葉で彼と別れる気はない」
そう、他人の思惑で彼と別れる気なんてない。彼を傷つけると分かっていても告白したのはわたし自身の意思だ。彼と別れる時ガ来るとすればそれは………。
わたしの言葉に彼女の瞳が揺れ、不安定になる。見え隠れする異常と捉えられる執着が強く彼女の表に現れた。
「……………い」
得意気にお茶を入れてくれた岬結衣くんは消え去る。
「私から透を奪うなんて許さない!」
癇癪を起こした子供のようでもありドロドロとした感情の吐露のようでもある叫びをわたしは真正面から受け止める。
「透は私だけを見ているの!!そうでないといけないの!!邪魔しないで!!「彼」が居ない今、もう、透しかいないの!!」
内面を全て吐き出すかのごとく捲くし立てる少女は自分でもどうにもならない感情に苛立ち足掻いているように見える。
歪で歪んだ何かを厭いながらそれでも縋ることをやめることが出来ない。誰かを傷つけていることを理解しながらもそれでも自分を優先してしまう自分を唾棄するほど嫌っている。
激昂した瞳と目が合う。
「絶対に赦さない」
目はこれ以上ないぐらいに怒りに燃えているのに言葉だけは平坦で感情がそげ落とされたようだった。
「近寄らないで触れないで取らないで。透の目を奪うことなんて赦さない」
爛々と異常な光を宿す岬結衣くんにわたしは何も言えなかった。言うべき言葉なんてきっとない。
わたしの願いと彼女の願いが重なることなんてないのだから何を言っても詭弁だ。
静かに時間が過ぎる。
重ねるべき言葉なんて互いにないことを知っていたのだと思う。
「帰る」
「そうかい」
暗い瞳でそれだけ言って帰っていく彼女の姿をわたしは見送った。
「あー想像以上に消耗しているな」
玄関を閉め、部屋に戻り、そのまま寝床へダイブする。何かだるさを感じて動く気がしない。
のそのそと視線を動かし枕元に置いてある「それ」を手に取る。その厚みに少し、元気になった。
天井を見上げ、眠気に瞳を閉じる。一株の恐れとそれを押しやるぐらいの疲れにわたし意識は反抗することもできずに眠りに落ちた。
『好きだよ』
『君がすき』
夢は優しくてそして浅ましく残酷。
好きだと言って好きだって返してもらえる。そんな至福がわたしに訪れることは、ない。