真夏の記憶
休日のある日。我が家にやってきた岬結衣くんは焦れたような表情で我が家の玄関前に立っていた。
ちなみにわたしと彼女は家を行き来するほど仲良くはななっていない。
「岬結衣くん?」
「………入れて」
「まぁ、構わんが。どうぞ?」
招き入れると岬結衣くんは小さく「お邪魔します」と小さく一礼をした。ふむ。靴もきちんと揃えているし彼女の親御さんはしつけをきちんとされる方なのだな。
彼女を自室に案内してわたしは茶を用意するために台所に向かう。
冷蔵庫を開けるが生憎と麦茶を切らしてしまっている。仕方がないのでヤカンを火にかけ、茶缶を取り出す。湯が沸くのを待って茶葉をいれた急須に湯を注ぐ。ごぼごぼと湯のみに茶を注ぎ、茶菓子と共に盆にのせて再び自室に向かって歩き出す。
自室に戻るとやはり思いつめたような焦れたような形容しがたい顔つきで床を睨んでいる岬結衣くんがいるのでわたしは少し首をかしげた。
「すまんな麦茶がなくて熱い茶しかないんだ。菓子はあるぞ?」
「…………ありがとう………って!なによこの緑色のヘドロのようなものは!!」
受け取った途端に目を剥き湯のみを突っ返してくる岬結衣くん。
「日本茶だが?」
「濃すぎでしょー!!一体どんな入れ方したのよ!!」
怒鳴られて自分の茶を入れた手順を思い返す。
「湯を沸かし、湯のみを用意して、茶缶を出し、缶の半分ほどの茶葉を入れ………」
「はい、ストップ!!」
指折り数えながら手順をなぞっていると何故だか青い顔をした岬結衣くんに止められた。
「なんだい?」
「なんだい?じゃないよ!!そんなに茶葉を入れてどうするの!!ああ~もう!!いいわ台所に案内して、結衣が入れなおす!!」
岬結衣くんの迫力に押されてわたしはコクコクと頷いてしまった。
手際よくてきぱきと湯のみを暖め、茶杓で茶葉の量をキッチリ測り急須に注ぎ、時間をはかる。手馴れた手つきに感心している間に茶のよい香りが漂ってきた。
「おお~~~」
おもわず拍手で出迎えてしまう。
「はい、入ったよ」
差し出された茶を一口すする。ふわりと口内に広がる香りと味に思わずほぅとため息が出た。
「実に、美味………」
美味だ。それ以外言いようがない。上機嫌で茶を飲むわたしに岬結衣くんは「そうでしょう。そうでしょう」と満足そうに頷いていた。
「茶の入れ方一つでここまで変わるものなのだなぁ。わたしが入れるとなぜか茶でもコーヒーでも紅茶でも色が濃くなる………」
「茶葉を異様に入れすぎなのよ!お茶はその茶葉にあった入れ方をしてあげればとってもおいしくなるんだからね!遠藤さんの入れ方は茶葉を殺しているわ!!」
ぎんと睨まれた。よほどわたしの茶の入れ方が気に食わなかったらしい。まぁ、同じ茶葉でこんなに美味な茶を入れられたらわたしとて素直に認めざるを得ないので大人しく「すまなかった」と謝った。
しばしのほほんと茶を飲む。ほのぼのとした空気に癒される。
「って!!違う違うち~~~~~が~~~~~~う~~~~~~!!」
ぶんぶんと物凄く頭を振って湯のみを机に置いて叫んだ岬結衣くん。なんだなんだ?
「なんで結衣が遠藤さんとお茶飲んでまったりのほほんとしなきゃいけないの!!」
「いや、このお茶の美味さからいえば何故してはいけいのかとわたしは言いたいが」
「しゃら~~~~ぷ!!黙って!結衣は遠藤さんに話をつけにきたの!!」
すすっと美味い茶を飲みながらわたしは予想していた話題だったので静かに続きを促す。
岬結衣くんは深く深呼吸をすると真面目な顔で口を開いた。