残暑の記憶 7
君との最初で最期の夏。闇に浮かぶ色鮮やかな儚い光の記憶をきっと私はいつまでも夢に見続ける。
「え?夏の遊び?あれ?遠藤さん甚平?なに?一体あなた達どこになにしていてこれから何するの?」
いい感じに混乱したらしい岬結衣くんが湧き上がる疑問を一息にまくし立てる。
うむ?
しかし、どうして会う人会う人私の甚平姿にまず突っ込みを入れてくるのだろうか?
微妙に謎だ。みすてりーという奴だな!
機会があれば二人とじっくりとっくり語り合いたがそれはおいておいて。
「……なんだ、これ。空気が一気に108度変わりやがった」
頭が痛いといわんばかりに眉間を押さえている石崎透くん。うむ。なかなか鋭い。私の意図する所をよくわかっているではないか。
以心伝心という奴だな!
「二人も辛気臭い顔はやめるのだ!これから夏らしい遊びをしようではないか!……という訳で」
私はとある方向を指差す。
「君達はこの先にある河原で待機だ。私はもろもろの準備をし、根回しをしたら合流する」
素直に私が指差した方向に顔を向ける二人。その顔にはただただ驚きだけがあって先ほどまで両者に宿っていた影は見当たらない。
場の空気を読まなかった発言に影はどこかに引っ込んでくれたみたいだ。
……よかった。
「え?あ?おい!お前なにをする気だよ!」
「では頼む!あ、暗いから気をつけるよ~~に!」
転んだり悪漢に絡まれたらいけないから注意はしっかりとする。
石崎透くんが何か言いかけていたがそんなことにはかまわず私は手を大きく振った。
さて、まずはコンビニにれっつらごーだ!
下駄を鳴らしながら私は全力疾走で走り出した。
全ての準備を終えて戦利品の数々を手に河原についた私の姿を見つけるなり石崎透くんがすっ飛んできた。
「どこに行ってたんだ何だその荷物はここでお前は何をする気だ!」
がくがくと肩を揺さぶられるといいたいものも言えないのだか、そこのところはどうなのだろうか?
どうどうと興奮している石崎透くんを落ち着かせ私はコンビニを数店舗回って買い占めてきた大量の花火とバケツを地面に置く。
ビニール袋から覗く花火に気づいたらしい岬結衣くんが座り込んで中身を確認して「こんなに一杯……」と驚いていた。
「お前、まさか」
そう君達が想像している通り。
楽しくなって笑ってしまう。
今日という一日をあんな暗い気持ちで終わらせてなるものか。私も石崎透くんも岬結衣くんも今日という一日を思い出した時に眉をしかめるのではない、思わず笑ってしまうぐらい楽しい思い出にするのだ。
だって今日は私と石崎透くんの初でーとで私と石崎透くんと岬結衣くんが初めて一緒に花火で遊ぶ日なのだから!
がさごそとビニール袋から花火をつかみ出しそれらを私を呆然と見ている二人の鼻先に突き出し私は高らかに宣言した。
「夏といえば花火!これから皆で花火をしようではないか!」
「……は?」
「え?」
またしてもぽかーんと口を開けられ凝視されさすがの私も口を尖らせてしまう。
「むっ?なんだい?嫌なのかい?君達は花火がそれほどまでに嫌いかい?見るのもおぞましいと嫌悪し唾棄すべきものと蔑んでいるのかい?」
「いやいやいや!何言ってんだよ!お前!」
「違うのかい?違うのなら花火をするのが君の運命だ!」
こぶしを握り締めて熱く強くここに宣言しよう!
私たちは花火をするのだ、と!
「お前いつもと明らかに違う方向にテンションが高いだろ!どうした!」
必死の形相で石崎透くんが私の肩ががくんがくんと揺らしてくるが笑って流す。
あははは。どうしたも何も私はいつもこんな感じだぞ。
「えっと……あれ?私、家に帰ってきたら透が夏祭りに出かけたって聞いて……それで……でも遠藤さんと一緒だったけど……遠藤さん、甚平でなんていうか……デートっぽくないし……それになんで花火?どうしてこんな流れに?あれ?」
「ぶつぶつと言っているその隙にきみの花火に点火」
「ふぇ?うぁ~~!」
彼女の持っていた花火にライタを近づけると勢い良く白い光があふれ出す。驚いてあわあわしている岬結衣くん。
「おいこら遠藤!いきなり花火に火をつけたら危ない……」
「君の花火も点火」
素早く今度は石崎透くんのもつ花火に火を近づけると赤い光が迸る。
「おい!」
「そして打ち上げ式の花火の五連発~~!!」
用意しておいて据え置きの花火に次々点火していく。ひゅ~んというお馴染みの音とともに次々に花火が上がっていく。一瞬だけ光の花を咲かせるものパラシュートが落ちてくるもの違う種類の花火が五連続。怒鳴りかけていた石崎透くんもあわあわしていた岬結衣くんも思わずといった感じで空を見上げていた。そんな二人の腕に飛びつきながら私は空に向かって花火をするのなら絶対に忘れてはいけない掛け声を空に向かって叫んだ。
「さぁ、皆さんご一緒に!た~~ま~~や~~!」
こういうのは馬鹿になって楽しんだもの勝ちだぞ、ふたりとも。
さぁ、楽しむのだ!
はしゃいで笑って怒られて……最後には三人で花火を遊びつくした、そんな残暑の記憶。