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君に送る手紙  作者:
11/14

残暑の記憶 5

 祭りというものはこうわくわくする反面、帰り道は途端に寂しく感じてしまうのはなぜなのか。

 にぎやかな祭りの喧騒に慣れたからなのかそれとも夏の終わりを強く感じてしまうからか。

 そんなとりとめどないことを考えながら私は手を夜空へと伸ばす。


「花火というのはやはりいいな」


 ただ一瞬、儚く咲いて消える夏の花。その美しさと儚さはどこか春の桜にも似ている。


「今日は誘ってくれて感謝する。とても楽しかった」


 数歩遅れて歩いていた石崎透くんを振り返り心からのお礼を述べる。本当に楽しかったのだ。

 祭りも花火も彼とでーとできたことがとても楽しかった。


「~~~~っ!」


 なのに石崎透くんはお地蔵様のように固まったかと思うと怒っているような違うようななんとも形容しがたい表情を浮かべていた。


「石崎透くん?」


「なんでもねぇよ!」


 やけになったかのような声だ。なんだ?

 いったい何が?


「さっさと帰るぞ」


「?」


 疑問が隠せない私を早足になった石崎透くんが追い抜いていく。肩をいからせずんずん歩いていく彼に首をひねりながらも小走りに追いつく。

 からころと下駄の音が夜道に響いていた。

 彼と肩を並べた所で夏の終わりを感じさせる風が間をすり抜けていく。


「夏ももう、終わりだな」


 すり抜けた風を追いかけるように空を見上げる。

 楽しかった夏の思い出。

 おそらくは最初で最後の彼との「夏」の思い出だ。

 それは過ぎていくのが惜しいぐらいきらきらと輝いている。

 私はどれぐらいこんなきらきらした思い出を作れるだろうか。


 心に浮かんだ思いに心が騒いだ。


「君と過ごすこの夏はもう、二度とやって来ない」


 言葉にして実感する。

 そう、二度と来ない。どんなに楽しくてもどんなに大切だと感じても過ぎていく季節を押しとどめる術などちっぽけな私には全くない。


「過ぎていくのが惜しいぐらい楽しかった」


 永遠に続いて欲しいと願いそうになるぐらい楽しいのだ。叶わない願いほど惜しんでしまう。


「また、一緒に来ればいい」


 思いもしない彼の言葉にびくりと体が震えた。

 空耳だと思った私を強い眼差しが否定する。


「また来年、一緒に射的して焼きそば食べてイカ焼きは足が旨いか体が旨いか決着をつけてればいい」


 未来を約束する言葉が石崎透くんの口から私に向かって放たれている。何かにあわてるように石崎透くんの手が私の腕を掴んでその力強さに驚いた。


「遠藤が惜しいと思ったこの夏よりも楽しい夏を何度だって過ごせばいい……来年の夏も……」


 君は、知らない。


 その言葉に私の心がどれほど喜んでいるのか。

 そして同じぐらい絶望していることを。


 来年の夏、私が彼の隣で祭りを楽しむことはない。


 それでも、思う。


 その気持ちがうれしいと。

 愛おしいと思う。


 今、感じている心に恋や愛などという名前なんて付けなくていいと思う。私は彼に救われ、彼が好きで、彼を助けたくて……彼を傷つける道を選んだ。

 限界だった彼の逃げ場になってそして……いずれ手を放すひどい女なのだ、私は。

 だから、今は笑おう。君への想いを精一杯形にしよう。


「ありがとう。石崎透くん」


 君の気持ちが私になくても向けられるものが罪悪感から生まれたやさしさからくるものでも、私はとてもうれしいと感じてしまうから。


 ずきん。


 頭の奥でかすかな痛みを感じた。慣れたその痛みに少し焦ってしまう。


「えん……」


「透!」


 闇夜を切り裂く少女のとがめる声。少しづつ強くなる痛みを堪えながら私は彼女の名を呼んだ。


「岬結衣くん?」


 私にとっても彼にとっても特別な少女の名をつぶやくと同時に私を掴んでいた手が離れていく。消えていく温もりを惜しみながら私は真っ直ぐに彼女を見つめた。


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