皮算用
新庄は楽な姿勢になると、口を開いた。
「【タップ】は危ねえってのは、本当だ。
何しろ、外注の支払に、三ヶ月の先付け手形を切っているほどだからな。外注先からは、ぶうぶう文句を言われているよ。
しかし『蒸汽帝国』が、きちんとオン・エアされれば、事情が違ってくる。何しろ、【タップ】制作って冠がつく……。
今までの【タップ】は、大手の下請け、孫請けだったが、今度は元請だ! 代理店と直で取り引きできるんだ!
もう、上の制作のピン撥ねなんか、一切ねえんだ……。それに、著作権料も入ってくる。それもこれも、『蒸汽帝国』がきちんと制作できるってえ、前提なんだ……」
一気に捲くし立てると、背中を反らして、じろりと迫力ある目付きで全員を睨みつけた。
新庄の目付きには「文句なんか言わせねえぞ!」と、無言の圧力が籠められている。
市川は、ある疑問を口にした。
「どうして【タップ】が元請になれたんだ? 今まで下請けばかりだったんだろう?」
新庄は苦笑いをした。
「木戸さんが、おれと同期だったからだよ! あいつとおれは、大学の漫研仲間だったんだ! あいつの口利きで【タップ】制作が決まったんだ!」
今度こそ、全員に衝撃が走った。
なぜか、市川に笑いの衝動が湧き上がる。
「な、な、なあーる、ほど……。あんたと木戸監督が同期の桜って、知らなかったよ!」
けたけたと気違いじみた高笑いをする市川は、なぜこんなに可笑しいのか、自分でもさっぱり判らない。
苦々しげな新庄、呆然とこちらを見ている洋子や、山田の視線を感じると、さらに爆笑の発作が襲う。