暴露
山田はポカンとした表情を浮かべ「呆れたな」と言わんばかりに口を丸くしている。
「おいおい、市川君。何をそんなに臍を曲げているんだ? 君は、現実世界へ戻りたくはないのか?」
山田に問い詰められ、市川は渋々ながら頷いた。
「そりゃあ、いつまでもこんな気違いじみた世界に島流しなんて、御免だよ」
山田は首を振った。
「それじゃあ、すぐ仕事に取り掛からないと……。おれは、バートル国の設定……王宮とか、城下町を設定するから、君は町の住民や、王様、兵士、お姫様の設定を頼む」
市川は、歯を食い縛った。
じろりと一同を見やり、呻く。
「本当に帰れるのか? おまえら、あの〝声〟の言葉を信じるのか?」
「市川っ! いい加減にしろっ!」
堪りかねて、それまで無言だった新庄が大声を上げた。顔は真っ赤に染まり、眉間には深々と皴が刻まれている。
「おれは御免だぞ! おれには、家族がいるんだ! 女房に、子供に、それに【タップ】の社員にも責任がある。こんな世界で、引っ掛かっていられねえんだ。それに、何としても『蒸汽帝国』をものにしねえと、会社が立ちゆかねえ……」
最後の台詞で、新庄は「あっ」と口を押さえた。が、もう遅い。山田は立ち竦んでいる新庄を凝視していた。
洋子がポツリと呟いた。
「平ちゃん……」
山田は、チラリと洋子を見ると、新庄に向き直った。
「新庄さん、そりゃ本当か? 会社が危ないのか?」
新庄は、がくりとソファにへたりこんだ。顔色は元に戻っている。両手を握り締め、視線を床に落としている。
山田は静かに話し掛けた。
「説明してくれないか?」
新庄は自棄になったように、不貞腐れた顔を上げて、全員を見回す。
「ああ、本当だ」