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絶対拒否!
全員、しばらく無言だった。〝声〟の命令を、じっくりと胸の内で咀嚼していたのである。
「設定がないと、これから向かう……確か、バートル国とか聞いたな……は存在しないと言っていたな」
山田が、のそのそとした口調で口火を切った。
洋子が大きく頷いた。
「そうよ! あたしたちが設定を描かないと、どこにも行けない話しよね。本当かしら」
「冗談じゃねえ!」
むかむかとした怒りに、市川は思わず手近の椅子を蹴り飛ばした。
椅子は、どっしりとして、市川が蹴っただけでは、びくとも動かない。市川の爪先が痛んだだけであった。
「痛てててて……!」
爪先を抱え、ぴょんぴょんと飛び跳ねる市川を、洋子は唇の端に笑いを浮かべ、皮肉そうな表情で眺めている。
洋子の表情を目にして、なぜか市川は、さらに荒れ狂った。
「何が可笑しいっ! おれは絶対、あいつの命令なんか、御免だからなっ! キャラクターを描けだって? 厭だっ! 金輪際、何が何でも、一切合財……」
後は語彙が貧弱で、続かない。
ともかく妙な〝声〟のお告げなど「はい、そうですか」と従う気には金輪際なれなかった。




