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自覚
ふっつりと気配が消え、残された全員は呆然と、お互いの顔を見合った。
ふと、市川は三村を見た。
三村は王族に用意された豪華な椅子に座り、宙を虚ろに見詰めている。
唇が動き、呟いた。
「僕は、アラン王子。それが僕の名前……」
不安になって、市川は三村の前に立ち、まじまじと見つめた。三村の表情には、新たな決意のような色が浮かんでいる。
「おい、どうした、三村君」
いつもは「三村!」と呼び捨てにするのだが、今の三村にはそうさせない、何か奇妙な雰囲気が漂っている。
三村の視線が動いて、市川を見た。
一瞬、以前のおどおどとした、臆病そうな表情が浮かんだが、すぐに拭い去るように消え去り、市川がはっとするほど断固たる表情に変わった。
すっくと立ち上がった三村は宣言する。
「僕は、アラン王子! そうなんだ、僕はボーラン帝国の、第五王子なんだ!」
拳を握りしめ、立ち尽くす三村を、市川はただ驚きに打たれ、見詰めるだけだった。