お仕事
「どうしよう! 憶えていないぞ!」
市川の叫びに、全員が顔を見合わせた。
新庄が大声を上げる。
「それがどうした? 名前くらい、別に大した問題じゃないだろう? 三村君は、三村君。健介王子様でいいじゃないか?」
いかにも新庄らしい、雑駁な結論だった。
──王子様の名前はアラン王子や……。
部屋に響いた〝声〟に、全員飛び上がった。
──しっかりしてくれんかな? そんな曖昧な記憶じゃ、お仕事を任せられん。
市川は、むっとなって言い返した。
「なんだよ、お仕事って?」
〝声〟はすぐさま、反応した。
──アニメのお仕事や! あんたら、冒険だけしとったらええと、呑気に思ってるんやないやろな?
洋子は目を光らせる。
「違うの? あんた言ったじゃないの。あたしたちが行動して、ストーリーを進めろ、って。他に何をしろ、って言うの?」
──さっきも言ったように、アニメのお仕事や! これからあんたらが向かう隣国、バートル王国の設定と、王子様と出会うお姫様。王国の大臣、王様、兵士、一切合財が全て必要や。そうでないと、隣国は存在せえへん。
立ち上がった市川は、手足を振り回し、喚いていた。
「そんなの、無理だ! 木戸監督と打ち合わせしていない! 打ち合わせなしで、設定するなんて、無茶もいいところだ!」
〝声〟は冷酷に返答した。
──無茶でも何でも、やりなはれ。どんな設定しても構わん。とにかく、ストーリーが進行するのが大事やからな……。
遠ざかる〝声〟に、市川は「待ってくれ!」と叫んだが、無駄であった。