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伏線
「全員、搭乗!」
指揮官が大声を上げ、その場にいた兵士たちが動き出した。ぞろぞろと階段を登り、次々に船内に入っていく。
搭乗する兵士の列を見上げ、市川は驚きに目を見開いた。
あの女!
ほっそりとした肢体に、帝国の軍服を身に着けた、木戸監督の特別注文でキャラクター設定をした女が、列の先頭付近にいた!
市川の胸に、むらむらと予感が湧いた。
きっと、あの女、何か仕出かす!
予感というより、確信だった。
だって、今いる世界はアニメの世界なんだぜ……。しかも女は、何度も市川の目の前に伏線として登場している。何か仕出かさないと思わざるを得ないじゃないか!
面白くなってきた……。
自分の感想に、市川は吃驚していた。何だか、この冒険を自分は楽しみ始めているのではないか、と疑い始めていたのである。
違う、違う! 断固、違う! おれは何としても、元の世界へ帰るんだ! こんな気違いじみた状況は、どうあっても耐えられそうにない……。
が、確実にそうだと言い切れない自分にも気付いていた。