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アニメのお仕事・改  作者: 万卜人
#1 嵐を呼ぶ企画会議
9/213

原作

「くくく……」


 市川は忍び笑いを洩らした。隣で洋子の繰ったページに見入った山田は、ぐずぐずと鼻を鳴らした笑い声を上げる。


「こりゃ、いい! こいつは、おれか?」


 市川の悪戯書きであった。市川と山田、洋子の三人が冒険者のような身形をして、辺りを警戒するような姿勢をとっている。


 市川は旅の盗賊、山田は杖を持った老魔法使い、洋子は肌も顕わな女剣士といった出で立ちである。


 市川の描いた三人のキャラクターは、思い切りディフォルメされているにも関わらず、はっきりと各々の個性が浮き出ていて、誰でも描かれた人物を特定できる。


「あたし、こんなに胸は大きくないわよう……」


 洋子は頬を真っ赤に染めながらも、それでも悪い気はしないようで、しげしげと見入っていた。市川の描いた洋子のキャラは、胸の谷間が思い切り強調された衣装を身に纏っていて、確かに実物よりは一・五倍……いや、二倍はバストが豊かに描かれている。


「おれ、こんなに爺いかい?」


 山田は自分のキャラクターに、感想を述べた。山田は半分ほど白髪になっているが、市川のキャラクターでは完全に白髪になっていて、髭も胸元まで伸ばしている。


「いいじゃんか! どっちにしろ、遊びだ!」


 市川は、ばっさりと切り捨てる。

 山田は油の浮いた顔をぺろりと撫でると、椅子に座って頭をがしがしと掻いた。


「それにしても打ち合わせ、本当に今夜中にできんのかな?」


 山田の言葉に洋子が目を光らせた。


「できないと、完全にアウトよね?」


 市川は無言で頷いた。アニメ業界に飛び込んで八年あまり。そろそろスケジュールも、駆け出しの制作進行よりは把握できてくる。

 どう考えても、今夜中に打ち合わせを済ませておかないと、最終アップには間に合わない。というより、すでに最終アップは過ぎている。今はギリギリの状況なのだ。


 デスクに放り投げられたままのマンガ本を、市川は取り上げた。


 タイトルは『蒸汽帝国』で、作者は木戸純一きどじゅんいちとある。

 この木戸なる人物が、今夜打ち合わせをする総監督本人である。

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