飛行場
ブラス・バンドが国歌を演奏し、礼砲が飛行場に鳴り響いた。
空は相変わらずの晴天である。
抜けるような青に、ぽっかりと白い雲。
市川は「そういえば、今まで曇天は見ていないな」と胸のうちで呟いた。アニメでは、特別な場面でない限り、空は晴れ渡っているのが普通だ。
飛行場には、長さ百メートルはあろうかと思われる葉巻型の飛行船が横たわっている。葉巻型の胴体には、ボーラン帝国の紋章がでかでかと描かれていた。
飛行船には階段が横付けされ、前方には帝国の重要人物が勢ぞろいして、五番目の王子──つまりは、三村健介──を見送りに来ていた。
三村は見送りの人々と律儀に握手を交わし、時々、短く会話をしている。
堂々としていて、余裕すら感じさせる態度に、市川は「あれが三村か?」と密かに呆れていた。現実世界での三村とは、どうしても同一人物とは思われない。
それら見送りに来た連中との会話を切り上げ、三村はゆっくりと飛行場に整列している兵士たちに近づいてくる。
市川たち四人は、列の最後尾に並んでいた。
三村は近づくと、市川の顔を認め、表情にちらりと弱気らしきものが浮かぶ。
つい、と視線を逸らし、小走りになって階段へと急いだ。そこだけ見ると、やはり普段の三村である。
軽い足取りになって三村は階段を登ると、搭乗口付近で背後を振り返った。
わあああ……。
飛行場に詰め掛けた見物の市民から、一斉に歓声が湧き起こる。三村は階段の天辺から、腕を挙げ、市民の歓呼に応えていた。
優雅な仕草で三村は軽く頭を下げ、飛行船の船内に姿を消した。
「なんとまあ……」
市川の隣に立っていた山田が、首を振り振り、驚きの声を上げていた。
「あれが、三村君かね? まるで、生まれながらの王子様に見えるぞ」
山田の言葉に、市川は無言で頷いた。まったく、同感だ!