善処
市川は勢いづいた。
「そうさ! おれたち五人──おれと、宮元さん、山田さん、新庄さん──それに、お前の五人で行動すれば、元の世界へ帰れる!」
市川は、そもそもの最初の経緯から説明した。演出部屋で聞こえた謎の〝声〟から始まって〝声〟が
市川たちに理不尽な命令を下し、市川たちは不承不承承知した次第など、など。
「そうですか……」
頼りない三村の返事に、市川は苛立った。
「どうしたんだよ! お前、まさか、この世界が気に入っているんじゃあるまいな?」
三村は、ぎょっと顔を上げた。慌てて否定の言葉を口にする。
「ち、違いますっ! 僕だって、元の世界へ帰りたい……。でも、どうしていいか……」
市川は、にんまりと笑った。
「それなら抜群の手がある! いいか、あの〝声〟は、おれたち五人が一緒になって行動して、エンディングまで辿り着けと命令していた。五人は揃った! お前が最後だ! とすればだな、お前が王子としての権威を利用して、おれたち五人が常に一緒に行動できるよう、命令すればいいんだ! 判るか?」
「ええ、何となく……」
相変わらず三村の返事は、蜻蛉の羽音のように頼りない。
これが三村の地であると、市川は思い出した。常に三村からは、自信という二文字がぽっかりと抜け落ちているのだ。
「判りました、何とか善処します……」
朦朧とした表情で頷くと、足を引き摺るようにして、三村は出口へと立ち去った。
三村を見送り、市川は「大丈夫か?」と思い切り首を捻っていた。
あまりに捻りすぎて、首筋の筋肉が痛むほどだった。