覗き窓
これから先、どうなるんだろう……。
言い知れぬ不安に、市川の心は揺れた。
がちゃり、と営倉の通路に扉の開く大きな音が響いた。
次いで、こつこつ、と足音。足音は一人だ。
市川は首をもたげた。
かたん、と営倉の扉につけられた覗き扉が開いた。
「市川さんっ!」
囁き声に、市川は驚き、寝転がっていた床から一飛びで跳ね起きた。覗き扉に縋りつく。
「三村か?」
「はい……」
市川が覗き扉に顔を押し当てると、通路に立っていた三村が、ちょっと身を引いた。
相変わらず、おどおどした態度だ。背後から、誰かに怒鳴られるのではないかと、両目をぐるぐるさせて、周囲に気を配っている。
身に纏っているのは、豪奢な王族専用の軍服に、背中に翻した真っ赤なマントである。
黙って立っていれば、周囲をひれ伏さんばかりの貴族的な顔立ちをしているのだが、今は、ただの臆病者でしかない。
ごくり、と喉仏を動かし、三村は覗き扉に顔を押し付けている市川に視線を戻した。
「僕、三村健介、ですよね?」
市川は嬉しさに、思い切り叫んでいた。
「そうだっ! 思い出したか?」
「ええ……」と三村は、あやふやな態度になった。市川は眉を顰めた。
「どうした? お前、元の世界へ帰りたくないのか?」
三村は両目を見開いた。
「帰れるんですか?」