反感
市川には隊長の胸の内で、中佐の階級を持つ新庄に対し、今にも舌なめずりしそうな内心を見てとった。
騎馬隊と近衛兵は、すこぶる仲が悪い。
王族に近侍する騎馬隊に対し、近衛兵は王宮全体を警護する。騎馬隊の隊長は階級は低く押さえつけられているのに対し、近衛兵の指揮官は少佐、中佐は当たり前。時には将軍までを輩出する仕組みに、癪に思っているのだ……とは、後で市川が新庄から知らされた内情である。
新庄は背中を反らせ、高々と声を上げた。
「大尉!」
「はっ!」
軍隊の規律に、隊長はかちんと音を立て踵を合わせると、背筋をピンと伸ばした。
「兵士の処分は、わたしが直に処理する! このような大事を招来させた責任を痛感し、念入りに調査を行うと約束しよう! 貴官は、即座に自分の本分に戻るよう、命令するっ!」
騎馬隊長はピクピクと全身を震わせ、新庄への反感と、兵士としての規律に引き裂かれている。
しかし、規律が勝り、渋々とではあるが、右手が挙がり、敬礼の形を取った。新庄は、さっと答礼を返す。
「行ってよろしい」
くるりと背を向けると、隊長はしゃっちょこばった姿勢のまま、パレードに戻った。
隊長が乗馬すると、やっと閲兵式は再開された。静々と列が動き、がっくりと背中を曲げた三村を乗せた蒸気自動車が動き出す。
じろり、と新庄は市川を睨みつけた。
「市川君、ありゃ、超まずいぞ……超々……とにかく、こんな場面じゃ絶対あってはならん失態だ!」
新庄は「ふーっ」と深々と息を吐く。歩き出し、ちょっと市川を振り向く。
目には「なぜ従いてこない」と非難がありありと浮かんでいる。市川は、ぼけっと突っ立っていた。
市川は慌てて新庄の背中を追いかける。
背後を見ると、車から三村が、ぼんやりとした表情で、市川の動きを目で追っていた。
演壇に居並ぶ全員は、反逆者を見る目で市川を睨んでいた。