警備隊長
市川の頭には、全身の血が、かっと昇っていた。目も眩む怒りに、すでに周りに気を回す心の余裕など完全に吹き飛んでいる。
呼びかけられた王子──三村健介は見るも無残に今までの態度を急変させ、おろおろぶりは、見っともないほどであった。
三村の視線が、睨みつける市川の目と合った。
瞬間、三村の長い顎がだらりと下がり、両目が大きく見開かれた。さっと顔色が白くなり、まるで音を立てて血の気が引いていくようだった。
「すっ、すみませんっ! 僕が悪いんです! ご、御免なさいっ!」
頭を抱え「ひいーっ!」と笛が鳴るような悲鳴を、長々と上げた。
王子の急変ぶりに、パレードは凍りついた。蒸気自動車は急停止し、運転している兵士と周りを警護している騎馬隊全員が、何事かと厳しい表情で周囲を窺っている。
遂に警備隊長の視線が、王子を睨みつけている市川の顔に止まった。さっと腰の指揮刀を抜き放ち、剣先を突きつける。
「そこの兵士っ! 何を騒いでおるっ?」
「へっ?」と、市川は我に帰った。
きょろきょろと辺りを見回すと、演壇の顕官、王族、将軍たちが一斉に厳しい視線で睨みつけているのに気付く。