王族
近づいてくる蒸気自動車は、絢爛たる装飾を施されている。
車体は目にも鮮やかなロイヤル・ブルーで、ボンネットにはドーデン王室の紋章が描かれている。金のモールが車体を取り巻き、日差しに金色の光を帯びている。
後席に話題の王子が座り、手を振る市民に愛想良く手を振っている。王族が通過すると、市民の間から歓声が上がった。
自動車がついに市川の目の前を通り過ぎていく。
後席の王族を見て、市川は「あっ!」と小声で叫んだ。
ひょろ長い身体つきに、これまた長い顔。高い鼻筋、彫りの深い顔立ち。身に着けているのは真っ白な軍服で、肩の肩章が目映く光っている。
しかし、あの顔は……。
むらむらと市川の胸に怒りが満ちてきた。
おれがこんな兵士の格好をしているのに、あいつは王族だと! 王子様だって?
冗談じゃねえっ!
市川は大きく息を吸い込み、叫んだ。
「おいっ!」
王子の態度が急変した。それまで身につけていた王族らしい物腰が、市川の叫びに呆気なく剥げ落ちたようだ。
きょときょとと、二つの目玉が、落ち着きなく辺りを見回している。
市川は、もう一度、思いっきりの大声で叫んだ。
「三村健介っ!」