キャラクター設定
洋子は市川の真向かいに座り、両手に一冊の薄っぺらいマンガ本を手にし、視線を紙面に落としながら口を開いた。
「市川君は、どうなのよ?」
「少しは、な!」
得意そうに市川は答え、バッグの中から一冊のクリア・ファイルを取り出した。クリア・ファイルの表紙には『蒸汽帝国・メイン・キャラクター表』とタイトルがあった。
洋子がマンガ本をデスクに置き、手を伸ばして市川のクリア・ファイルを取ってぱらりと開く。透明なクリア・シートに挟まれ、市川の描いたキャラクター表が天井の明かりを受け、顕わになった。
「何よ、少しどころじゃないじゃない……」
洋子の声に「どれどれ」と山田は窓から身を翻し、デスクの上に視線を落とす。
「ほお」と感心するように唇を丸くする。
「凄いな、こんなに描いたのか……」
二人の賛嘆の声に、市川は有頂天になっていた。人から誉められると、すぐその気になる性格で、単純といえばいえる。
市川の描いたのは、数人のキャラクターである。全身、顔のアップ、小物など、様々なキャラクターがいろんなポーズで描かれている。いわゆるキャラ表という奴で、原画マン一人一人にキャラ表が配られ、原画マンは描かれたキャラクターの指示を守り、作画する。
しかし原画マンによっては、様々な癖が出る。それを修正するのも、作画監督の仕事である。市川の描いたキャラ表は、クリア・ファイルを、ほぼ半分ほど占めていた。
一枚一枚、丁寧に見入っていた洋子は、最後のページになって顔を赤らめた。
「ちょっと、これ、何なのよ?」