閲兵
閲兵式であった。
王宮前の広場には、閲兵式を見物にドーデン市の市民が詰めかけ、見物している。
市川と洋子は、新庄と一緒に演壇に立ち、通過する兵士の列を眺めている。一応、警備兵として立哨しているのだ。
新庄が自分の個人的な部下として、市川と洋子を登録し、便宜を図ったのである。閲兵式は王宮の重要な祭典で、ここに参加すればストーリーが進行するのではないか、という新庄の推測であった。
山田は調理人として、王宮のキッチンで腕を揮っている。妙なのは、山田はキッチンで一人前の調理人としてすぐ通用した。今まで厨房に立った経験すらないのに、持たされたフライパンや、包丁を器用に操って、料理を瞬く間に調理している。
おそらく、調理人という役割をあてがわれているため、習った覚えのない料理をできるのだろう。
同じ理屈で、市川と洋子もまた兵士としての適性があった。刀を抜いた経験すらないのに、支給された軍刀を楽々と扱え、訓練に参加できたのである。
「来たぞ! 第五王子だ!」
新庄が小声で緊張した声を上げた。
市川と洋子は、ぐいっと背筋を反らせ、近づく蒸汽自動車を待ち受ける。
閲兵式は、王族のお披露目でもあった。
新庄の説明によると、王宮には五人の王子、王女がいるという。今日は、末席の五番目の王子が成人となり、市民に姿を表す大事な日でもあった。演壇にはすでに成人となった四人の王族が居並び、堂々とした佇まいを見せている。