汗
トランペットが朗々たる行進の合図を奏で、数百人の軍靴が一斉に上がって、大地を踏みしめた。
玩具の兵隊のような軍服に、真っ赤なラインが入った真っ白なズボン。全員が銃剣つきの歩兵銃を手にし、両手は真っ白な手袋に包まれている。
先頭を歩く指揮官は、指揮刀を掲げ、演壇にずらりと居並ぶ顕官、貴族、将軍に対し、敬意を表している。
演壇を通りすぎる兵士は、さっと右手を挙げ、きびきびとした敬礼をして通過する。将軍たちは鷹揚に片手を挙げ、それに応えている。
空は晴れ渡り、日差しが兵士たちの装備に反射して眩しいほどだ。
暑い!
市川の被った軍帽はむしむしと蒸れ、額からは後から後から汗が湧いてくる。
首筋はきつい詰め襟で締め付けられるようだ。軍服の背中には、滝のように汗が流れているだろう。
「酷い汗だな」
見かねて、新庄が小声で囁いた。
市川は無言で頷く。新庄はこの世界では市川の上官であり、しかも中佐という階級だ。他人目がある今の状態で、気軽な口調で会話するわけにはいかない。
ちらりと市川は隣の洋子の胸元を覗き込んだ。洋子は平気な様子で、汗もかかない。もっとも、あんな露出の多い軍服だから、涼しいのかもしれないが。
「何を見てんのよ!」
唇の端で、洋子がぴしゃりと決め付けた。市川は思わず首を竦めた。