大問題
市川は新庄の態度に少し気押され、考え考え答える。
「えーと……確か、森の中でおれたちと同じ主人公たちが目覚めるんだ。そこで、お姫さまを襲う怪物と戦って、やっつける……」
山田は顔を顰めた。
「なーんて月並みな出だしなんだ。お姫様を襲う怪物だって? それを主人公が戦って救うのか? 百万年前も昔のパターンじゃないか!」
新庄は、ぽつり「そうか……」と呟いた。
どこか放心したような表情に、市川は不審を抱いた。
「どうしたんだい、新庄さん。木戸さんが原作と違う絵コンテを描いたのが、そんなに気になるのか?」
新庄は市川の質問に、ぐいっと顔を上げて、ぶるぶるっと大きく首を振る。
「知らん! おれは、何も知らん!」
大きく叫ぶと、べろりと顔を撫でた。気を取り直したように肩を竦め、宣言する。
「さあ、おれたち、元の世界へ戻るため、頑張ろうじゃないか! もっとも、何をどう頑張ればいいのか、さっぱり判らないがね」
にやりと笑いかけると、それまで腰掛けていたデスクから、ぴょんと床に飛び降りた。
「君たち、おれの手配で近衛中隊に入隊するんだ! いいな? これは原作どおりだぞ」
じろりと全員を見据える。市川たちは、新庄の気迫に、一斉に点頭をした。
市川は、新庄がさっきの話題を大急ぎで変えようとしているように思えた。木戸が原作と違う展開で絵コンテを描くのが、新庄にとって大問題であるようだった。
なぜだろう?




