発端
市川は呆れて、ぽかんと口を開いた。判ったような、判らないような、奇妙奇天烈な論理である。
「それじゃあ、何かい? おれたちが無闇無鉄砲に動けば、そのうち三村が、おれたちの目の前に現れるって、あんたは保証するのか?」
山田は大きく頷いた。
「おれは、そう思っているがね」
「ふうん」と市川は唇を突き出す。と、ある事実を思い出した。
「それにしちゃ、ちょっと変だな」
洋子が市川の様子に顔を上げた。
「何が変なの?」
市川は洋子に顔を向け、答えた。
「木戸さんの絵コンテ。ほら、演出部屋でたった五枚しか描かれてなかったろう? 多分、最初の場面だと思うんだが、おれが見た絵コンテは、原作と全然、違ってた」
市川の言葉に「え?」と反応したのは、新庄だった。新庄は市川を睨みつけるようにして話し掛けた。
「そりゃ、本当か? 原作と違っているって……?」
「うん。原作は皆、知っていると思う。まず、酒場でおれたちが出会う場面だ。実際、おれは酒場で、最初に山田さんに出会って……」
「あたしを見つけた」と洋子が市川の話を受ける。
市川は頷いた。
「そうだ。全く、原作と同じだ。だが、木戸さんの絵コンテは、違ってた。おれの覚えのない場面だったな」
「どんな場面だった?」
新庄は真剣だった。身を乗り出し、市川の言葉を全身で聞いている。




