代打
──だから、世話役のようなもんや。わしのでけるのは、限られておる。
せいぜい、あんたらを連れてくるくらいが限界や。
木戸はんがお手上げになったさかい、あんたらに代打を頼みたいんや。なんとか、この世界で活躍してもろうて、ストーリーを進めてくれんやろうか?
新庄が疑問を呈した。
「そのストーリーだが、どうやって進めるんだ? おれたちは誰一人、シナリオなど書いた経験はないぞ」
──もう始まってまっさ! あんたらの行動すべてが、『蒸汽帝国』のストーリーとなるんや! あんたらが行動する結果、この世界は自然な反応を起こす。ゆえに、あんたらは『蒸汽帝国』の主人公や!
新庄の腰掛けているデスクの表面に、出し抜けに一束の真新しい紙が出現した。背後の気配に、新庄は飛び上がった。
「な、な、なにを……?」
──あんたらの道具や。それを使って、お仕事しなはれ……。
再び〝声〟は遠ざかっていった。ふっつりと気配が跡絶え、四人は呆然としてお互いの顔を見合わせた。
市川はぎくしゃくと立ち上がった。緊張で、全身が、かちんこちんに強張っている。
デスクを覗き込むと、出現したのは動画用紙の束であった。十六対九の、ハイビジョン画面比率に合わせた用紙である。
市川は呟いた。
「これで、何をしろ、ってんだ?」




