世話人
今度は市川が、口を開いた。
「そうなんだ! おれたちが行動して存在しない『蒸汽帝国』のストーリーを進行させ、エンディングまで辿り着ければ、元の世界へ帰れるそうだ。だから、新庄さんを探していたんだ」
山田も身を乗り出し、会話に加わる。
「あと、三村君だ! おれたち四人と、三村君の五人でストーリーを進めなきゃならないらしい……」
新庄は頷き、やっと口を開いた。
「そうか……。しかし、訳が判らんな。なんでわざわざ、おれたちをこんな世界へ引っ攫うなどと七面倒臭い手間を掛ける必要がある?
あんたらの話じゃ〝声〟は、まるで神様みたいな力がありそうじゃないか。
神様なら、何でもできるんじゃないか?」
──わしは、神様なんかや、あらへん。
不意に〝声〟が響き渡り、四人はぎくりと天井を見上げた。
洋子の唇が「あの〝声〟よ!」と声を出さずに動く。山田は顔を真っ赤にさせ、新庄は凍りついた姿勢のまま、大きな両目をぐりぐりと動かしていた。
──仰山の人が同じ世界を思うと、その世界は現実のものになりますんや。ちょうど、この『蒸汽帝国』のように……。
けど、肝心の木戸はんがストーリーをおっ放り出して、中断してしまったさけ、この世界は不安定でおますねや。
このままでは『蒸汽帝国』の世界は消滅してしまいます。この世界に生きる数十億の人々とともに……。せやから、わしが非常手段を採らざるを得ないんや。
あんたらが活躍してくれたら、この世界は本当のものになりますんや……。
堪らず、市川はすっくと立ち上がり、怒鳴った。
「あんたは誰だ! 神様じゃないとしたら、なぜ、おれたちを連れてくる?」




