執務室
新庄に教えられた扉の前に立ち、軽くノックをする。すぐドアが開き、新庄が顔を出した。
首を突き出し、廊下に人気のないか確認すると、手を忙しく振って「入って来い!」と合図した。
執務室というわりには、新庄の個室は狭苦しい。間口二メートルほどの奥行きがひどく長い、鰻の寝床のような部屋である。
窓はなく、天井から壁を伝って、伝声管やら、ダクト、用途不明のパイプなどが数本、室内に伸びている。空気を循環させるためか、大きな換気扇が、からからと微かな音を立てている。
部屋のどんづまりには、デスクが設置されている。デスクの前には簡単な応接セットがあった。
新庄はデスクにちょこんと腰掛けると、市川たちに応接セットに座るよう指示した。
「さて、どうなってる? 演出部屋で妙な〝声〟が聞こえて、その後は、何が何だか判らなくなって……気がつくと、市川君が声を掛けてきた。それで全て思い出したのだが」
洋子が勢い込んで喋り出だした。
「あの〝声〟が、あたしたちを、この『蒸汽帝国』の世界へ連れて来たんだわ! 理由は、あたしたちに未完成の『蒸汽帝国』のストーリーを完成させるんだって!」
新庄の目はぐいっと見開かれたが、口許はしっかりと閉じられ、何も言わなかった。無言で先を促す。