馬鹿
着替え所を出ると、不機嫌ありありの洋子の出迎えを受ける。
並んで洋子の出で立ちを目にした市川と山田は、同時に顔を見合わせた。
洋子は顔を赤くさせた。
「なによ、二人とも!」
「いや、どうも……」
山田は素っとぼけて、首の後ろを撫でる。
市川はニヤニヤ笑いが浮かびそうになるのを、必死に抑えていた。
洋子の軍服は、胸元が大きくはだけた、実に色っぽいものだった。庇つき革製軍帽を被り、両足は剥き出しで、膝小僧を覆うブーツを履いている。
「なんだか、ナチの女看守って感じだな!」
つい、市川は正直な感想を述べるという、おそろしく馬鹿な真似をしてしまった。市川自身、自分の口の軽さに、ついつい後悔するが、もう遅い。
「馬鹿っ!」
ぱあん! と大きく音が鳴り、目の前に極彩色の火花と、星が幾つも散った。
きいーん、と耳鳴りがして、市川は踏鞴を踏む。
洋子のビンタが市川の頬に炸裂したのだ。じんじんと市川の頬から顎にかけ、痛みが沁みてくる。
「本当っに、男って馬鹿なんだからっ!」
どすどすと大きく足音を立て、洋子はくるりと背を向けると歩き出す。
山田を見ると、横を向いて肩が震えている。
笑っているのだ。




