軍服
王宮内の、装備支給所で軍服や、装備品を受け取り、市川たちは着替え所に入った。洋子は女性用に入る。
「なんだ、おれの服は? こりゃ、どう見ても、コックの服じゃないか!」
憤懣を顕わにして、山田は不平を洩らした。
市川は自分の軍服を着用するのに手間取り、山田の着替えなど眼中になかった。
支給されたのは十九世紀風の、肋骨服と言われるものである。色は目の覚めるような青に、ズボンは真っ白な中に、赤いラインが入っている。まるで玩具の兵隊のようである。
頭に被るのは、天辺に羽根飾りのついた帽子であった。どう見ても、儀典用としか思われない軍服であった。
軍服は、市川がキャラクター・デザインしたときに同時に描いたものだ。とはいえ、自分で着込む事態など、まったく考えに入っていなかった。様々なボタンや、ベルトがややこしく、実に手間取る!
目を上げると、確かに山田の着ているのはコックの服装である。コック帽に、前掛け、足下は長靴であった。
市川は、思わず吹きだす。
「似合うじゃないか、山田さん」
「受付の奴、おれが応募のとき、市内で酒場をやっていたと聞いていたから、おれをコックにしやがった!」
山田はむすっと呟いた。じろりと市川の軍服を見やる。
「君はいいよな。なんだか、昔のグループ・サウンズの衣装みたいだが」
市川には山田の言葉が判らない。
「なんだい、そりゃ?」
山田は「聞き流してくれ」とでも言うように、片手をひらひらさせる。時々、山田は市川の知らない過去の思い出話に浸るのが癖で、それが少しばかり市川には鬱陶しい。
「そろそろ宮元さん、着替え終わったかな?」
市川は、つい、洋子を姓で呼ぶ。山田は「かもな」と受けて、着替え所の出口へ向かった。