未練
主人公のキャラクター表が、さっきの三人の顔に変わっていた。
木戸は考え込んだ。これには自分でも想像がつかない、とんでもない訳がある!
どう対処すべきか……。
木戸は諦めて、鉛筆を握りしめた。
とにかく描き進めるしかない。
新しい絵コンテ用紙を取り上げ、机の上に広げる。鉛筆の先を白紙に押しつけ、さらさらと最初のカットを描く。
あとは自動書記のごとく、勝手に手が動いて、カットを描いていった。
ぱた、と鉛筆を握る手が止まる。
白紙の動画用紙を取り上げ、ある一人のキャラクターを描いていった。描いたのは、女性のキャラクターだった。
ほっそりとした身体つきに、挑戦的な意志の強そうな瞳の美少女である。
木戸は、うっとりと自分の描いたキャラクターを見詰めていた。いつか『蒸汽帝国』のストーリーに登場させようと考えていたキャラクターである。
美少女には、モデルがあった。木戸の脳裏には、モデルとなった少女の顔がハッキリと焼きついている。
「絵里香……」
木戸は、ぽつりと呟いた。
と、不意に自分が描いた動画用紙をくしゃくしゃと丸め、壁に投げつける。両手で顔を覆い、込み上げる悲痛に耐えていた。
未練だ! 執着だ! いい加減、諦めたらどうだ? こんなキャラクターにして自分のシリーズに登場させても、本当の相手を振り向かせるなんて、金輪際できる訳ない!
ぐいっと溢れた涙を拭い、木戸は再び絵コンテへの挑戦を続けていった。