最終カット
どれほどの時間が経ったろうか。
木戸は蹲った姿勢からようやく立ち上がり、自分がぶん投げた椅子を、のそのそと取り上げた。椅子を演出机の前に置くと、不貞腐れたように、ぐったりと座り込む。
じっとそのまま、絵コンテ用紙を見詰める。
ぱらぱらと、自分が描いた絵コンテのカットを眺める。
自分が描き上げたとは、今でも信じられない。あれほと苦吟していたのが、嘘のようにすらすらと描き進める自分に、ただただ驚くばかりだ。
何だか、どこか別の場所で『蒸汽帝国』の主人公が活躍して、自分は主人公たちの行動を背後からじっと見ていたような気分である。自分は主人公たちの行動を、そのまま描き写していたような感覚があった。
第一話の最終カットは、主人公の三人が帝国軍に入隊する場面で終わっている。
木戸は目を細めた。
しげしげと、自分の描いたカットを見直す。
妙だ。
なぜか、主人公三人の顔が、作画監督の市川、美術監督の山田、色彩設計の宮元の顔に似ている。
確かに自分では、もともとのキャラクターを描いているつもりだった。ところが、見直すと、三人の顔に変貌していた。
机の棚には、キャラクター表がある。
木戸は顔を上げ、キャラクター表を見直して、驚愕のあまり叫んでいた。
「なんだ、こりゃ……!」