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アニメのお仕事・改  作者: 万卜人
番宣・その二
66/213

ダブル・クリップ

「できた! 第一話の絵コンテがついに完成したぞ!」


 木戸純一は大声で叫ぶと、今しがた完成した絵コンテ用紙の束を掴み上げ、椅子から立ち上がった。

 用紙の上端にダブル・クリップを挟み、机の上に投げ出し、大きく伸びをして、背中を反らした。

 ぽきぽきと、背骨の関節が鳴って、達成感が押し寄せる。


 いったい何時間……いや、何日が経過したのだろう? 夢中になって描き続けていたが、途中まったくといっていいほど中断はなく、眠気も一切、襲ってこなかった。

 不思議なのは、尿意すら感じない。空腹もなかった。一度たりともトイレに立ちたいとか、何か口にしたいなどという欲求は、湧いてこなかった。


 あの妙な〝声〟が、木戸の肉体的な欲求を奪い去っているのだ!


 木戸は、じろりと演出部屋を見渡し、声を張り上げた。

「おい! あんた! 名前があるのかどうか知らないが、いつまでおれを、この部屋に閉じ込めておくつもりだ? 絵コンテは終わったぞ! いい加減、出してくれ!」


 部屋は森閑と静まり返って、応えはない。ただ木戸の息遣いだけが、荒々しく響いているだけである。


 木戸の胸に、凶暴な怒りが込み上げる。

「出せ! おれを、ここから出せ!」


 唸り声を上げると、木戸は自分の椅子をがっしりと両手で抱え上げた。そのまま、ガラス戸を目掛け、思い切りぶん投げる。


 ぐわしゃん! とガラスが粉々に砕けるかと思ったが、椅子はまるで岩の壁にぶち当たったかのように、ごん! と鈍い音を立てて跳ね返された。ガラスには、罅一つ入ってはいない。


「畜生……!」


 悲鳴のような叫び声を上げると、無茶苦茶に部屋の中のものを手当たり次第、ガラス戸に投げつける。


 しかしガラス戸は、まったく変化なく、無表情に木戸の狼藉を受け止めるだけだった。

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