驚愕
ぞろぞろと出口へ向かう列の最後尾に、市川たちは並んだ。
出口では、応募者たちが希望する部署を新庄に伝えている。新庄はそのたびに、応募者にどの部屋へ向かえばいいか、答えている。
あの女が新庄の目の前に立つ。新庄は女を見上げ、一瞬怪訝な表情を浮かべた。女は自分の希望を述べた。新庄はすぐもとの表情に戻り、てきぱきと指示をする。女は頷き、出口へと向かっていった。新庄は何事もなかったかのように、事務的な態度を取り戻した。
市川は、じっと新庄プロデューサーの顔を見詰めていた。新兵にしては、明らかに無遠慮といえる視線である。新庄は近づいてくる市川の顔に、不審の視線を返してきた。
その顔が驚愕に弾けた。
まず、真っ青になり、ついで赤くなると、どす黒く変色した。
視線が部屋の中を忙しく彷徨い、明らかに動揺を隠せない。どっと額から汗が噴き出してくる。
市川が目の前に立つと、背筋をぴんと立て、そっぽを向いて口の端で喋った。
「希望する部署は?」
「あんた、新庄さんだろう?」
市川の言葉に、ぎくりと新庄は身を強張らせた。ロボットのようにぎくしゃくと顔を向けると、まじまじと見つめ返す。
「君は……市川君か?」
洋子が前へ出て、話し掛ける。
「平ちゃん! 思い出した?」