階級
用紙に記された地図を頼りに、王宮の内部を歩いていく。山田は自分の設定が現実になっているのが珍しいのか、しきりと天井の飾りや、壁に架けられた絵画に見とれ、歩みが遅くなる。
王宮内部はやや近代的な、山田の言葉によれば「アール・デコ」様式の造りになっていた。現実世界では、一九二〇年代から三〇年代に流行した形式らしい。直線と、曲線が巧みに組み合わされ、簡素さの中に、優雅さが織り込まれている。
地図に導かれ、市川たちは広々とした部屋に辿り着いた。部屋には、すでに何名かが先着し、思い思いに椅子に座ったり、壁際に背中を押し付けるようにして立っている者も見受けられる。
市川たちは最後の組らしく、入口から内部に歩を進めると、先着の応募者たちがじろりと鋭い視線を送ってきた。
皆、押し黙ったまま、待ち続けている。
市川たちは、木製の長椅子を見つけ、三人で並んで座り込んだ。
市川は会場の前方に、あの女の後ろ姿を見つけた。女は一人、椅子に腰掛け、長い亜麻色の髪の毛を見せている。
しばらく待つと、もう一方のドアが開き、数人の軍人がぞろぞろと入室してきた。
全員、応募者を前に、整列した。
ばりっとした制服の胸には、様々な略綬が埋め尽くすように飾られている。皆、将官クラスの階級であった。
その列の最後尾にいる一人の男に、市川は注目した。襟元の階級章は、中佐を示している。市川は以前、戦争もののアニメを経験していて、階級賞には詳しい。
そっと隣の山田に話し掛ける。
「おい、あの中佐……」
山田も「うん。判ってる」と頷き返す。
ゆっくりと洋子が囁いた。
「平ちゃんよ! あんたの設定したキャラクター、そのまま!」
新庄平助──。アニメ制作会社『タップ』の社長にして『蒸汽帝国』プロデューサーであった。