応募
応募係りは、四角い蟹のような体型の中年男であった。
薄緑色の軍服を身に纏い、四角い顔立ちに、髪の毛は短く刈り上げ、天辺を平らにして、これまた四角い顔を強調している。
「名前は?」
「市川努」という市川の返答に、男は奇妙な表情を浮かべた。
「イチカワ・ツトム……? 妙な名前だな。外国人か?」
市川は、思わず背後の山田と、洋子を振り返る。そう言われれば、そうだ。この『蒸汽帝国』では、「ジョージ」とか「マリアン」などの西洋風の名前が主流である。
男はペンを手にし、尋ねてきた。
「どこの国の出身だ?」
「日本! 東京都杉並区出身です!」
応募係りが、益々珍妙なものを見る目つきになる。
市川は、にやにや笑いが浮かぶのを抑え切れなかった。応募係りの顔に、怒色が浮かぶのを見て、少々やりすぎたと反省する。
それでも応募係りは市川の言葉どおりに、さらさらと手元の用紙に書き込んでいく。見かけは厳ついが、律儀な性格なのだろう。
応募の用紙を受け取り、その場から離れると、山田と洋子が同じように返答して、応募係りの男はぐっと怒りを堪え、用紙に記入する。
山田と洋子は市川に追いつき、懸命に笑いを堪えた表情で並んで歩き出した。
「おい、あの応募係りの顔を見たか?」
市川が囁くと、山田は頷いた。が、すぐ心配そうな表情になる。
「大丈夫かな? 悪ふざけと思われないか?」
洋子はきつい目付きになって、市川の脇腹を思い切り突っついた。
「市川君! もっと真面目になりなさい!」
脇腹をつつかれ、市川は思わず「ぐえっ」と呻き声を上げる。洋子は見かけによらず、性格が悪い。いや、見かけどおりと言うべきか?