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色彩設計
ぐっと眇めた瞳で睨みつける。
丸顔で、小柄なのも手伝い、年齢の見当がつかない。髪の毛は染めておらず、化粧気のない顔立ちのせいで若く見られがちだが、実際は三十代だと市川は推測していた。
宮元洋子。職業は色彩設計。要するに、アニメのキャラクター、作画される総ての色を決める役割だ。かつては色指定と呼ばれていた。
昔々、アニメがセルと呼ばれる透明なシートに線と絵の具で描かれ、フィルムで撮影されていた頃は、一枚一枚、手作業で絵の具を塗っていた。
だが、今はコンピューターのソフトで、一気に着色されてしまう。アニメの中でも、もっとも省力化が進んだ分野である。
洋子の言葉に、市川は「うへっ」とばかりに舌を出して見せた。
すでに立腹は収まっている。市川は瞬間湯沸かし器のような性格で、すぐ怒りの沸騰点に至るが、怒りを忘れるのも呆れるほど早い。すでに三村に怒鳴りつけた時の怒りは、すっかり消え去っている。
「少しお待ちを……」
哀願するように三村に言われ、市川は肩を竦めて会議室へと歩み寄った。