BGオンリー
BGオンリーとは、背景画だけでワン・カットを見せる手法である。アニメでは、背景画をBGと呼ぶ。背景を省略した言葉だ。
市川も苦笑を返した。山田も同じだと、共感したのである。
正門前には、すでに数人の先客が並んでいた。皆、市川や洋子のように、腰のベルトや背中に、思い思いの武器を装備している。多分、兵士募集に応じた連中だろう。
その連中を見て、市川は内心「はて?」と首を傾げた。
今、市川が行動している『蒸汽帝国』の世界は、明らかに十九世紀末の科学文明を誇っている。蒸気機関による動力や、夜の照明などは、電気を利用している。
それなのに、集まってきている連中の武器といえば、刀や斧、棍棒など、恐ろしく古めかしい装備だ。
一人として、拳銃やライフルなどの火薬を利用した武器を持つ者はいない。刀や槍などの武器は、江戸時代の武士のように、ある種の権威の象徴なのかもしれない。
集まっている応募者の中に、市川は見慣れた顔を見つけた。
山田と洋子の注意を喚起する。
「おい、あの女……」
市川がこっそりと指さした方向を見て、山田と洋子はあんぐりと口を開けた。
山田が洋子を見て、尋ねる。
「昨夜、洋子ちゃんと……」
市川が口を挟む。
「肉の取り合いしてた女だ!」
市川の言葉に、洋子はさすがに真っ赤になった。食いものの争いとは、あまり外聞が良くないからだろう。
相変わらず、肌の露出が多い衣装を身に纏っている。その代わり、足下まで達する、長いマントを背中から垂らしていた。
腰にぶら下げているのは、長大な剣だ。他の応募者とは違い、あちこち傷だらけで相当に使い込んでいそうである。
ほっそりとした肢体に、髪の毛は、やや亜麻色がかり、くるくるとウエーブが掛かっている。肌は小麦色の健康的な色合いで、きりっとした口許の、かなりな美人である。