門
おれたちは木戸監督の絵コンテによって、行動しているのでは……。
山田の推測を頭から振り払い、市川は空元気を振り絞って、大股に歩き出した。立ち尽くしている山田と洋子に、自分でも驚くほど快活に声を掛ける。
「面倒臭い考えは、やめだ! とにかく、兵士募集とやらに応募してみようぜ!」
山田と洋子は市川の空元気に、ほっとした様子だった。頷くと、歩き出す。
目指すは、正門だ。
工場のような王宮の建物の前には、堂々とした〝門〟が聳えている。市川は、王宮そのものが工場か、製鉄所のような外観だから、門も同じような造りかと想像していたのだが、やはり王宮であるからには、それらしい門構えが必要なのだろう。
どっしりとした御影石の門柱に、鉄製の柵が、ぐるりと王宮そのものを取り囲んでいる。鉄製の門扉の上には、燦然と輝く黄金色の紋章が装飾されている。
紋章そのものは様々な色合いが施され、彩色は、七宝焼きらしきエナメル質の光沢を見せている。
隣の山田は門を見上げ、ぽかんと口を開きぱなしになっていた。市川は山田の顔色を見て、話し掛けた。
「どうしたんだい、山田さん。この門は、あんたが設定したんじゃないのか?」
山田は「ふーっ!」と大きく息を吐き出した。額に浮かんだ汗を、芝居がかった仕草で拭うと、苦笑を浮かべた。
「ああ、まさしく、おれが美術設定した王宮の門だ。しかし、自分で設定した場所が、このように現実になっているのを見ると、つい職業的に見てしまうもんだ。もし同じ場面をBGオンリーで描けと言われたら、どうしようかと思ってね。こんな手の込んだ画面、一日で描けきるかなと思ったんだ……」