説明
「何でえ、二人とも。お互い判っていて、おれには、さっぱり判らねえぞ!」
山田は渋い表情のまま、口を開いた。
「おれたちが、木戸さんの『蒸汽帝国』って作品の世界にいるって状況だよ。おれたちは、この中で、主人公の役割を担わされている」
洋子が相槌を打つ。
「そうよ。デーブ・スペクターが無理に関西弁を喋っているような、変な〝声〟の命令でね!」
じわじわと市川にも、二人の言わんとする道筋が見えてきた気がした。市川は二人を見て、目を一杯に見開いた。
「まさか……そんな阿呆らしい……?」
洋子が皮肉な笑みを浮かべ、肯定する。
「そうなのよ。あたしたち、木戸さんの描いたコンテに従って行動しているんじゃないかって思い始めたのよ」
山田が口を挟んだ。
「それなら、ランスが都合よく、おれの目の前に現れた説明がつく! まるで、テレビ・アニメのシナリオじゃないか!」
市川は弱々しい声で抗議した。
「よせよ、おい……おれは信じないぞ! おれたちが好き勝手に行動すれば、この無茶苦茶なストーリーが進行して、エンディングに辿り着けるはずだろう? な、そうだよな? おれたちの行動はすべて、自分たちの自由意思なんだろう?」
山田は吐き捨てるように答えた。
「そうだと良いんだが……! この先、木戸さんが主要な登場人物の誰かに、死に直面するような展開をさせる、などと思いつかないよう、ひたすら願うしかないだろうな」
市川は何度も首を振り、叫んでいた。
「よせったら!」
しかし山田と洋子は押し黙ったまま、答えなかった。