タイミング
その山田が、得々と説明を続けた。
「なにしろタイトルが『蒸汽帝国』だろう? 監督の説明では、あらゆるところに蒸汽が使われたスチーム・パンクっぽい世界設定なんだそうだ。だもんで、おれも王宮は、思い切って工場みたいな設定にしたんだ。もっとも、内部まで工場内部のようにするわけには絶対いかないが……」
「あのう、親爺さん……」
ここまで案内してくれたランス少年が、山田を見上げ、もじもじしている。山田は少年を見て「ああ!」と笑顔になった。
「ここまで案内してくれて、有難うな、ランス!」
もぞもぞと、身に着けた衣服を探る。
やがてポケットから数枚の硬貨を取り出した。日の光を浴び、硬貨はきらりと硬質な光を反射した。それをランスの手に握らせる。
市川は密かに、自分もこの世界で通用する通貨を所持しているか、後で確認しようと決意した。
「これは、お礼だ。それじゃ、ここでお別れだ。元気でやれよ」
ランスは手の平に載せられた硬貨を見詰め、顔を真っ赤にさせた。
「こ、こんなに! あ、有難う御座います! 親爺さんもお元気で!」
ぺこりと頭を下げると、脱兎のごとく駆け出した。それを見送り、市川は首を振った。
「しかし、あの子供がうまく山田さんを見つけてくれて良かったよ。おれたちだけじゃ、王宮にいつになったら辿り着けたか、怪しいもんだからな」
山田はなぜか、渋い顔になった。
「そうだ。実に好都合に、あの少年が現れたもんだ……。好都合すぎる!」
市川は吃驚して、山田の顔を改めて見上げた。
「どういう意味だい?」
洋子が用心深そうな表情になる。
「何か、厭な予感がするんだけど。あたしの想像が確かならね!」
山田と洋子は見詰め合った。二人同時に頷くのを見て、市川はむらむらと癇癪の虫が、むっくりと頭をもたげるのを感じる。