王宮
案内された王宮を見上げ、市川は驚きのあまり、大声を上げてしまった。
「王宮って、これか?」
山田は真面目に頷く。
「そうだ。以前、木戸監督から設定依頼をされた、王宮だ。おれと監督がアイディアを出し合って……いや、ほとんど、おれのアイディアだがな……美術設定したやつだ。ちょっと、変わっているだろう?」
言い終わると、山田は得意そうな表情になって、瞳を煌かせた。
洋子が腰に手をやり、首を傾げた。
「とてもじゃないけど、王宮には見えないわね。どこかの工場かしら? それとも、鉄工所? どっちにしても、住み心地が良いとは、どうしても思えないけど」
まさしく洋子の指摘した通り、首都ドーデンの中心部に聳える王宮は、市川の常識からすると、まるで度外れた景観をなしていた。
外観は、臨海工業地帯に連なる、無数の配管や、煙突がおっ立つ工場のような建物である。鉄骨が剥き出しで、あちこちにガントリーやホイスト・クレーンがにょきにょきとはみ出し、いたるところに「危険!」「頭上注意」「制限高さ」などの警告板が、無秩序といって良い混乱を作り出している。
「工場萌え」オタクなら、狂喜しそうだ。
ついでに説明すると、市川たちが目にした町の看板、道路標示すべてが、日本語で書かれている。市川は日本語が表示されている看板等を見つけ「どうなってんだ!」と思わず歓声を上げた。完璧な十九世紀のヨーロッパの町並みに、日本語が表示されている眺めは、実に奇妙だった。
山田は「美術設定のとき、看板や表示板の文字は日本語にしておいた」と説明した。それが今ここで見る、町並みに引き継がれているのだろう。