町の名前
真剣に山田の顔を見上げている少年を見ているうち、市川の頭上に電球が点った。市川は素早く視線を上げ、自分の頭上に点っている電球を確認した。アニメの……いや漫画の、名案が閃いた時の表現だ!
「ランス……」
市川に声を掛けられ、少年は吃驚したような目を向ける。
「おれたち、この町……なんだっけ?」と市川は山田に質問の矛先を向ける。山田は短く「ドーデン」と答えた。
ああ、そうだった、と市川は小さく笑う。
自分は作画監督のせいか、町の名前とか、建物の名前は覚えにくい。キャラクターの名前ならすぐ覚えるのだが。
山田は美術設定をしているから、地名や建物の名称はすぐに出てくるのだ。市川は再び少年に向かって話し掛けた。
「おれたち、このドーデンの町についちゃ、さっぱり不案内なんだ。それで、君に案内して貰えないかと……」
こっそり山田を見ると「それ、いい考えだぞ!」とニッコリしている。市川は期待を込めて言葉を続けた。
「君、王宮への道案内、できるかな?」
ランス少年は不審そうな顔を山田に向けた。なぜ山田が道案内しないのだろうと思っているのだ。しかし山田は、すっ呆けて頷く。
「ランス。頼む」
山田にまともに頼まれ、ランスは素直に頷いた。中々、性格の良い子供のようだ。
「判りました、こっちです!」
くるりと背を向け、小走りに道案内を買って出てくれる。三人は意気揚々と、ランスの後に従った。