臭気
市川は鼻をくんくんさせた。
匂う!
地面から、下水の腐敗臭と、路面にぼとりぼとりと散乱する馬糞の入り混じった不快な臭気が辺りに漂っている。夜中では気付かなかったが、朝になって気温が上がり、臭気が込み上げたのだろう。
「こんな大都会なのに、ひでえ匂いだ!」
市川の不満に、山田が当然だとばかりに返事をした。
「大都会だからさ。この町は十九世紀をモデルに設定している。だから下水道も、その時代のものだ。
馬糞の匂いは予期しなかったが、下水道の匂いは、ありえるな。近代的な下水道はまだ、整備されていないんだろう。
フランスで長期夏期休暇が盛んだった理由は、下水の臭いに耐えられず、避暑地に逃げ出したからだという説すらある」
市川はがっかりした。煉瓦積みの、近代的な町並みに、今や日本の田舎でもお目に掛かれないほどの臭気が、まるで似合わない。
山田は、にやりと笑った。
「そのうち、慣れるさ。おれは子供の頃、田舎で育ったから、あまり気にならないがね」
洋子は黙って顔を顰めていた。山田は平気な顔をしているが、市川と洋子は、立ち上る臭気に参ってしまった。
山田が眠そうに伸びをする。
「ふわあああ……。さて、どこへ、どうやって行けばいいんだ?」
洋子が素早く答えた。
「原作では、主人公の三人は、王宮の兵士募集に応募するって、筋書きよね!」
市川は洋子の言葉に頷いたが、すぐ疑問を口にした。
「その王宮って、どこにあるんだ?」




