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スタッフ
市川の追及を受け、三村は困ったように眉を狭める。視線が何度も、制作室を彷徨った。
「そ、そのつもりなんですが……。監督が……」
「監督が?」
三村の視線が天井に向けられた。市川は親指を立て、天井を指し示した。
「ずっと演出部屋か?」
「はあ……」
三村はガクガクと何度も頷いた。まるで操り人形のような動きだ。
「市川君、来たのかい?」
のんびりとした声がしたので、市川は首を捻じって振り向いた。
制作室の奥にある会議室のドアが開き、一人の肥満した中年男が顔を見せていた。どこをとっても丸々としていて、髪の毛は長く、後頭部で纏めている。顔の半分は無精髭で覆われ、人の良さそうな笑みを浮かべていた。
山田栄治。年齢は五十近い。
職業は美術監督で、アニメの背景の総てを監督する。背景画は、アニメ業界でもっともコンピューター導入の影響が小さく、背景を描く人間は、今でも筆と絵の具を使って、背景画を描いている。
山田の背後から、もう一人、こちらは小柄な女が顔を覗かせた。
「うっるさいわねえ……。市川君、少し静かにできないの?」