絵コンテ
気がつくと、演出机にどっさりと絵コンテ用紙が山積みになっている。ペン立てには、ぎっしりと、愛用の2Bの鉛筆。一本を摘み上げ、机の左側に置いてある鉛筆削りに突っ込む。
がりがりがりがり……と逞しく鉛筆削りは2Bの先端を飲み込んでいく。引き抜くと、当たり前のように先が尖っていた。
鉛筆を凝視したまま木戸の指が、ぶるぶると震えていた。ぼきり! と鉛筆を手の中でへし折る。怒りの衝動が込み上げた。
「畜生! 誰の悪戯だ?」
ドアに突進した。ドアはきっちりと、元の通りに戻っていた。いつ修理したんだ?
がちゃり! とノブを掴んで外を目掛け、前も見ずに夢中になって飛び出す。
が、呆気に取られ、立ち竦んだ。
木戸の身体は元の演出部屋に立っていた。確かに、外に飛び出したはずなのに……。
ノブを掴んだまま振り返る。
演出部屋が見える。視線の先に、ドアのノブを掴んだ自分の背中が見えた。その自分の身体の先にもう一つの演出部屋があって、さらに視線の向こうに、またもう一人の自分の背中が見えて……。
まるで合わせ鏡のように、無限に続いている。木戸はぞっとなって、ノブを離し、ドアを閉めた。
これ以上、見続けていたら、気が変になってしまう。いや、もう、なっているのかもしれない……。
ばたり、と音を立て、ドアを閉め、そのままへたへたと演出机の椅子に腰掛けた。
頭を抱え、じっと待ち受ける。
何も起きない。
顔を挙げ、呟いた。
「判ったよ……やるよ、やりゃあ、いいんだろう?」
ふーっ、と息を吸い込み、決意したように鉛筆を掴み、絵コンテ用紙を広げる。
じいっ、と何も描いていない用紙を睨みつける。
さらさら……と、鉛筆の先が絵コンテ用紙の表面を走る。
描ける……!
あれほど苦渋していた絵コンテが、今では嘘のようにすらすらと描ける。後から後からイメージが湧き、止まらない!
木戸はもう、夢中だった。