時間
「おれに、何をしろと言うんだ……」
──やっと素直に話を聞ける状態になって、ほっとしましたわ……。
〝声〟は、わざとらしく安堵の溜息をついた。
──絵コンテや! 時間は、たっぷりありまっさかい、あんたの気の済む限り、描いておくれなはれ……。
「絵コンテ?」
木戸は大声を上げた。
「馬鹿を言うな! おれは絵コンテが描けなくて、逃げ出したいほどだったんだ! 今更、描いて下さいと言われて、はいそうですかと描けるわけない……」
──そうやろか? 本当にでけへん――と、あんた言うのでっか?
〝声〟の調子が変わった。猫なで声のような、あるいは誘惑するかのような声音に、木戸は、自分のうなじが、ぞわぞわと逆立つのを感じる。
──まあ、やってみなはれ。でけるか、でけんか、試して見るのもええや、おまへんか……。時間は、たーっぷり、ありまっさかい……。
徐々に〝声〟は遠ざかる。
「おい、待てよ! おれを一人ぼっちにするなよっ!」
ぱっ、と頭上から出し抜けに光が降り注ぎ、木戸は両手を顔に押し当てた。目の眩むほど、強烈な光だ。
やがて目が慣れてきて、木戸は辺りを見回した。
四角い四畳半ほどの小部屋。
【タップ】の演出部屋だった。