棚
「まさか……!」
両目を裂けよとばかりに、一杯に見開く。〝声〟は慌てたように否定した。
──ちゃうちゃう! そのどっちでもありまへん。
わいは、管理人とでも申しましょうか、下働きとでも申しましょうか、でけるのは限られておるんや。
あんた、追い詰められておりましたなあ。絵コンテを描く時間がのうて、あのままではスケジュールに間に合わず、放映に穴が空く。
そんな危機的状況やったの、違いますか?
「う、うん」
がくがくと震える膝頭に力を込め、木戸は椅子に腰掛けた。目の前に、見覚えのある自分の机が視界一杯に広がる。
机の上面は、やや手前に傾いで四角く切り取られ、合成樹脂の白い天板があって、天板は白く輝いている。透過台である。
透過台に光を当て、動画用紙を透かすと、下の紙に描かれた絵が判る。何枚も透かして、動きを確認して、動画マンや演出は、アニメを制作するのだ。
透過台は戦前から存在しており、古くは白熱電球を使用していた。白熱電球は熱を帯び、夏などは堪らなかったそうで、蛍光灯が導入されたのは戦後である。
机の上には棚があり、そこにはチェック済みの動画用紙や、絵コンテを突っ込む。棚の下面の板には『蒸汽帝国』用のキャラクター表や、美術設定が何枚も貼られて、常に確認できる仕組みになっていた。