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神でも悪魔でも……
──木戸はん……。
木戸は、ギクリと身を強張らせた。
あの〝声〟だ。
どっと記憶が蘇る。演出部屋で、雷鳴の中、破れかぶれで叫んだ瞬間、奇妙な光に包まれ〝声〟が聞こえてきたのだった。
「誰だ!」
誰何し、キョトキョトと宙に視線を彷徨わせる。
──誰でもおへん。わいは、ただの管理人。あんさんに少し、頼みがおますのや……。
「頼み?」
馬鹿のように鸚鵡がえす。
──そうや。あんたでしか、でけへん仕事なんや。
「仕事?」
──なんや、阿呆になったんか? わいの台詞、繰り返すだけやないか? しっかりしてくれんかな……。
〝声〟は一時、木戸の様子を窺うように言葉を切った。やがてもう一度、話し掛けた。
──木戸はん。あんた、言うたやないか。この窮地を救ってくれるなら、神でも悪魔でも構いまへん、ちゅうて……。
「神でも悪魔でも……」
思わず繰り返した木戸の胸に、再び恐怖が込み上げる。耳もとで囁く〝声〟は、どう考えても、神様とは思えない。