透過台
手の平で、地面をまさぐる。
足下はすべすべしていて、そのくせ、材質が何でできているのか、さっぱり判らない。硬いようで、柔らかくも思える。
「おおおいぃぃ……!」
木戸は闇に向かって思い切り叫んだ。
すぐ後悔した。
叫び声は、完全に反響すらなく、闇に吸い込まれていく。
木戸は昔、残響を完全に消去するという無反響室なるものに入った経験がある。様々な形の板が壁一面に接続され、あらゆる音を吸収する無反響室の体験は、実に奇妙なものだった。
何かの音響工学機器メーカーの実験室とかで、自分の声がまったく反響しない部屋での滞在は、今になって改めて考えても、ぞっとするものだった。
今の状態は、それを思い出す。
何でもいい……何か、この、べったりとした闇に、変化が欲しい……。
狂おしく周囲を見回す木戸の視界に、小さな光の点が映った。
何だ、あれは!
木戸は立ち上がった。さっきの全力疾走で、膝元は頼りなく、よろよろとした動作だったが、心の中に希望が赤々と点っていた。
再び走り出す。光の点は、木戸の疾走に合わせ、着実に近づいてくる。木戸の下半身に、力が漲った!
ぱたぱたぱた……。
気がつくと、自分の足音が聞こえる。
光はぐんぐんと近づいてきた!
「やっほう──!」
能天気な歓声を、木戸は思い切り上げていた。自分の顔は今、ひどく晴れやかになっているだろうと想像する。両目は輝き、口元は笑いの形に貼り付いているはずだ。
遂に、光の正体が判明した。
木戸は立ち止まった。
これは……。
自分の演出机だった。光は机の表面に装着されている透過台から洩れていた。