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アニメのお仕事・改  作者: 万卜人
番宣《コーヒー・ブレイク》・その一
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恐怖

 とぼとぼと、真っ暗な闇を、木戸純一が当てもなく歩いている。


 なぜ歩いているのか、どこを目指しているのか、本人にもさっぱり判っていない。ただ、立ち止まるのが怖ろしく、かといって無闇と走り出す無謀さも持ち合わせず、こうして項垂れた姿勢のまま、歩いている。



 闇なのに、自分の身体ははっきりと見てとれる。とぼとぼと歩む、自分の足下もちゃんと見られる。



 木戸は、市川たちの直面したアニメ化を経験していない。視界に入る、自分の手許、足下はごく普通に見えた。しかし、どこに光源があるのか、それも見当もつかなかった。


 演出部屋で全員に取り囲まれ、窮地に陥って叫んだ瞬間、何か奇妙な出来事が起きたらしい。が、何が起きたのか? 記憶は模糊として曖昧である。


 いったい、いつから自分は、こうして目的地も定めず、歩いているのだろうか? 歩き出したのは、ついさっきのようであり、また随分と長い間、ひたすら歩いていたようでもある。




 自分は、すでに死んでいるのではないか? ここは死後の世界かもしれない……。




 不意に恐怖が込み上げてきた。ひやりとした汗が、背中を伝い、心臓が凍りそうな恐ろしさが爆発する。




 厭だ!




 木戸は走り出した。猛然と、歯を食い縛り、全身の力を足先に込めて、全力疾走を試みる。

 足音は全くしなかった。全身全霊を込めて走っているのに、ぱた、という音すら、聞こえてこない。これほど全力で走っているのに、前方から吹き付ける風すら、そよとも感じない。


 やがて、木戸の駆け足は止まり、立ち止まった。



 ぜいぜい、ひいひい、はあはあと喘ぐ。




 心臓は、ばくばくと大きく鼓動し、タップダンスを踊るように、陽気に胸の中で飛び跳ねている。

 どっと熱い汗が額から零れ落ち、木戸はその場で、へたりこんだ。

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