似顔
「へっ?」
市川は混乱した。
「待て待て、山田さん。そりゃ、どういう話だ? おれが悪戯書きをすれば、あの二人がこの世界に登場するような口振りじゃないか。ちょっと待ってくれ……頭の中がグラグラしてきたぞ……!」
山田が呟いた。
「まるで落語の『あたま山』だな。
桜の種を飲み込んだ男の頭に桜の木が生えてきて、その下で花見の客がドンチャン騒ぎ。
その煩さに堪えかね、桜の木の根元にできた池に、自分で身投げした……。しかし他に、おれたちに見分けがつく方法はないよ」
市川は立ち上がった。地面を物色する。
あった! この場所に駆け込んでくる際に、目にしたのだが、地面にはあちこち石炭屑が散乱している。『蒸汽帝国』のタイトル通り、今いる世界は蒸気機関が盛んに使用されているらしい。そのせいで、石炭の屑も、あちらこちらに投げ棄てられているのだろう。
石炭屑を手に取り、市川は漆喰の塗られた壁に向き合った。
「それじゃ、やってみるぞ」
腕を伸ばしさっさ、と石炭屑を使って三村と新庄のキャラクターをスケッチする。
二人の顔は、市川の脳裏に刻み込まれている。市川は人の顔を覚える際に、一旦アニメのキャラクターに変換する癖があった。そのほうが、ちゃんと人の顔を憶えやすい。
「そっくり!」
描き上げると、洋子が歓声を上げた。
漆喰の壁に、市川の手による、三村と新庄の姿が現れていた。
ひょろりと痩せて、細長い三村の姿。鼻が高く、彫りの深い顔立ちながら、視線は今にも叱り声が聞こえてくるのではないかと、オドオドしている。
その隣に、やや上目がちにこちらを睨みつける新庄の厳つい顔があった。二人の姿は、今にも動き出しそうな臨場感があった。
山田は嬉しそうな声を上げた。
「うん! これなら、おれたちにも見分けがつくな!」
洋子がぼんやりと呟いた。
「それにしても、木戸さんは、どうなったのかしら?」
市川が半畳を入れた。
「絵コンテ描いているんじゃないのか?」
三人は思わず爆笑した。